世田谷区深沢環境共生住宅|ユルレポ

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緑の余白が潤いを与えてくれる
「世田谷区深沢環境共生住宅」

世田谷区深沢環境共生住宅の写真。緑に囲まれた中に白いアパートメントが見えています。

 2011年3月25日、見学会に参加いただいた数名の方々と「世田谷区深沢環境共生住宅」に訪れました。世田谷区深沢環境共生住宅」というのは、シルバー住宅、デイホーム、公営賃貸住宅、特定公共賃貸住宅(ファミリー向け)そして居住者向けの団欒室、集会室、研修室が併設されている敷地内施設全体の総称です。もともとは木造平屋の都営住宅の老朽化から建て替えることになったそうですが「地域に開かれた環境共生」「高齢者への対応」を大きなテーマとして、計画されたそうです。基本計画が平成4年12月、竣工は平成9年3月で約4年の歳月を経て完成したようですが、果たしてどれほどテーマが体現化されているのか、順にご紹介していきたいと思います。

曲がりくねった敷地内の道 敷地に入っての第一印象は、とにかく緑が多いこと。壁面と屋上の緑化、ビオトープ(多様な虫、食物などの住息環境のこと)、花畑、防風林、遮音緑地など敷地の至るところに緑が配されています。そのためか車道に隣接しているのにも関わらず、敷地内はとても静か。そして通り抜ける風も、適度な湿気を含み、やわらかくて心地よいものでした。高層階から見える中層階の緑化屋上と瓦!?は、通常無機質な印象の住宅棟の景観に変化を与え、潤いを感じさせてくれます。あえて水平垂直を避けたような敷地計画。敷地中央の曲がりくねった道は「その先に何があるんだろう」という好奇心を掻き立てられます。この獣道のような風景は、なぜか懐かしさを感じさせ、とてもほのぼのとした気持ちにさせてくれます。

空中の路地にはしっかりと緑化されています。住宅棟には屋外階段に併設された空中”路地”があります。ここにも小さな緑化が点在しています。そして通路は敢えて曲がりくねった不定形な設計が施されています。また唐突に居住部分が出っ張っていたり、凹っこんでいたり、かくれんぼが出来そうな楽しさがあります。ベンチも至る所に設置されていて、高齢の方々も安心して散歩が楽しめるユニバーサルな空間設計になっています。かくれんぼをする子供たちと散歩する高齢者との交流が目に浮かぶようです。

風光ボイドの様子を表したイラスト

 住宅棟には、風光ボイド(上図:黄色い部分)があり、風が縦にも横にも通り抜けるようになっています。また、人が通り抜けられる小道や路地などは、周辺地域とのつながりと風の通り道を兼ねているのかもしれません。歩行者と車の動線を分けているため、中央にあるビオトープの周りなどで子供達は安心して遊ぶことができるでしょう。一見すると異質な雰囲気の円形状の建物は、この敷地におけるシンボルになっているように思いました。また高齢の方々への配慮としては、手すり、スロープ、エレベーター前のベンチ、そして多くの住戸の扉や通路の幅はすれ違うのに十分な広さを有していたように思います。そして車椅子での使用を想定したのでしょうか、幾つかの住戸の玄関は引き戸になっていました。

 見学中、住民の方々に気さくに声を掛けていただき、ここでの暮らしについていろいろ教えて頂きました。とても暮らしやすいそうで、なかなか空きが出ないとのこと。話しぶりから、きっとここでの暮らしをとても気に入っているんだろうなと感じました。こうして住民の方々が訪問者に声をかけることは、防犯上も有効なことですよね。ここにはそういう雰囲気があるのだと思います。

 そして、そもそもこうして訪問者が訪れるということは、住民の方々にとって嬉しいことなんじゃないかと思うんです。もちろん訪問者は住民のプライバシーにまで入り込んではいけませんが、適度な訪問者は、場を活性化するんだと思います。ちょっと違いますが、私の生活でも、自宅に友人を招くのが、お部屋掃除のいいきっかけになっているのは同じことなんじゃないかと(^_^; こうしたことが、地域に開かれた環境共生というテーマに繋がるのかもしれません。

太陽光発電と風力発電

 見学後、運営する世田谷区役所の方に現状の課題について伺いました。一つは、設備のメンテナンス。現在、太陽光発電と風力発電は活用されていないそうです。ともすれば不安定で手間のかかる自然エネルギーの活用は、関わる人の動機に大きく影響するのかもしれません。またお子さんがいるご家族、高齢の方々、介護支援が必要な方々など多様な世代を受け入れる住居と施設を備え、世代間の交流を期待していたようですが、シルバー住宅の棟、ファミリー層の棟、一般の棟を個別の建家にしたためか、あまり交流がないとのこと。施設設計だけでなく、住民の方々の自発的な行動がセットになってこそ、交流というのは生まれるのかもしれません。

 さて「地域に開かれた環境共生」「高齢者への対応」をテーマに作られた「世田谷区深沢環境共生住宅」。ハード的には、敷地内の十二分な緑化、高齢の方々に配慮したバリアフリー設計、ちょっとした散歩が出来る敷地内の余白(路地など)、デイケアセンターが隣接するなど様々な取り組みをみることができました。そして、周辺地域の人を受け入れる住民の方々のやさしさなど、住むことの誇りも感じることができました。ただ一方で、世代間の交流が進んでいないということは、ハードの用意に加えて、場を活性化させる何かしらの仕掛けが必要なのかもしれません。

2011.4.12 ユルツナクルー マイ


LinkIcon「深沢環境共生住宅のご案内」世田谷区
LinkIcon世田谷区深沢環境共生住宅「World Habitat Award 2001」受賞

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