数字では図れない価値
「TOYOI6」
埼玉県草加市の静かな住宅街にある「TOYOI6(トヨイシックス)」は、集合住宅を数多く手がける川辺直哉さんが設計を担当し、うち一部の共用スペースのデザインはインテリアデザイナーの橋本夕紀夫さん、そして寄藤文平さんが建物ネーミング・ロゴデザインを行いました。こうも実績豊富なクリエーターが揃い踏みだと、さぞ斬新なものかと思いきや周辺住宅にとけ込んだシンプルで温かみのあるデザイン。そしてコンセプト計画、収支計画、コストマネジメント、計画推進、リーシングなどのトータルプロデュースは「ユルツナ」にこの物件をご紹介頂いた有限会社プロパティデザインオフィスの菊池林太郎さん。「TOYOI6」は2010年のグッドデザイン賞を受賞しています。
『戸建て住宅地に計画する共同住宅のありかたを提案した作品。単純な大きい箱型を避けて戸建てサイズのボリューム分節や屋根をつけることで、周辺環境になじんでいく印象がある。各住戸の内部空間も一戸建てのような自由度の高いデザインが得られている。』
引用元:2010グッドデザイン賞 審査委員の評価
全体を3つの大きなボリュームに分け、それぞれが寄り添った形。エントランス正面からみると二つの一戸建てが並んで建っているようにみえます。通常の集合住宅にありがちな圧迫感が大きく緩和され、周辺環境によく馴染んでいます。そして、屋上から見ると、周辺との一体感をより顕著に感じることができます。3つの大きな居住棟には一戸建てと思しき三角屋根があり、この屋根越しに他の住居の屋根を望むと、ここが集合住宅であることを忘れさせてくれます。
各居住棟は均一的な間取りではなく、それぞれが個性を持った空間になっています。小さなロフトがあったり、寝室に向けて小さな階段があったりなど、三角屋根の構造がそのまま室内インテリアにも現れている設計は、建物の構造がどうなっているのだろう?といった好奇心を掻き立てられます。オーナーの居住棟は階段部分の大きな吹き抜けと各階から望む坪庭などとても心地よい空間。その階段の途中にはアクセサリーを飾れる小さな空間があったり、住む人の趣味を感じさせてくれます。そしてそれぞれの住居の入り口付近には鏡が設置されていて、出がけに身だしなみを整えられるいいきっかけを与えてくれます。
そして「TOYOI6」の大きな特徴は、なんといっても住居の真ん中にある小さな坪庭かもしれません。この中にはシンボルツリー(ヒメシャラの木)が植えられていて、人が集う空間として上手く演出されていると共に、季節に応じた木の葉の色の変化は住む人に癒しを与えてくれるでしょう。この坪庭は、オーナーの一階部分に設計されているのですが、私たちが訪れた時には住人たちが集まってのパーティーが行われていました。住人、オーナー、建築家、コーディネーター、施工業者など「TOYOI6」に関わった方々が、施工後も「TOYOI6」を通じて集まる。建築とそれを作り上げるプロセスが人と人との間の触媒になって、更に人を繋げていく。ひょっとしたらこれが建築の本来の姿なのかもしれません。