私がゲストワーカーとして働いた「スヴァンホルム」は、デンマークにあるエコビレッジの中でも老舗中の老舗です。1978年から始まったこのコミュニティには、現在成人80人(高齢者は8人弱)、18歳以下50人の計130人程が生活をしています。住居は敷地内の屋敷・フラット等に加え、周辺に一軒家が点在するなど計15棟を所有しています。あとは幼稚園とオーガニックショップ。元々は有機栽培農業の共同経営を目的にした集団のようです。住民の4割はコミュニティ内で農業、畜産等を行っていますが、残りの6割はコミュニティの外(教師、デザイナー等々)で働いています。自身の収入の8割をコミュニティに渡し、残りの2割が手元に残ります。住民から集められた資金は、電気、水道、食事、施設運営などに賄われます。
所有する風車発電2機でコミュニティ内の電力をまかない、そして森林内の枝や木のカスを使いセントラルヒーティングを行っています。所有する250ヘクタールの農場にはジャガイモ、トウモロコシ、キャベツ、小麦、ビーツ、人参、豆類、洋梨、トマト、数種のリンゴ、各種ハーブを栽培していますが、化学肥料は一切使わない有機栽培です。あとは150ヘクタールの植林と250頭の羊、百数十の牛など。そして、定期的にゲストワーカーを募集し、週30時間の労働で食住を無料で提供しています。私が滞在していた時は、中国、デンマーク、エルサルバドル、ドイツ、オーストリア、そして日本から計10人のゲストワーカーが働いていました。
ゲストワーカーとしての生活はまるで学生時代の合宿そのもの。一緒に食事をし、くつろぎ、楽しむ。仕事も同じで、部屋も同じ。フロアでキッチン、サニタリーをシェアするなど完全な共同体です。そして、皆この場を選んできているというのもあるのでしょうか、趣味志向も似ているように思いました。話をすると、どこかしら共通点が見出せます。
食事はホントーーにおいしい。湿気も少ないため心地良く、住人のほとんどが外で食事をします。そして、おばあちゃん、おじいちゃん、小さな子供たちなど多様な世代が一緒に食事をするのですが、それがとても見ていて心地がいい。ゲストワーカーとして外国人が滞在するのも、住民にとっては生活に変化が生まれていいように思います。「どこから来たんだ?」「なんで来たんだ?」「日本はどうだ?」など質問攻めで、ちょうどいいからかい相手なのかもしれません。野良仕事はこたえますが、終わった後は爽快でいいですね。デザインの仕事は、退社しても頭の中は継続して仕事モードだったりすることが多かったので、こちらの方が切り替えができていいのかもしれません。仕事が終わると、殆どのゲストワーカーはダイニングでおしゃべりしたり、あるいはPCに向かっています。自分の部屋でやればいいのに、周囲に人の気配があった方がいいのでしょうか、ダイニングにいる4人全員がPCに向かっています。
磯村 歩
株式会社グラディエ 代表取締役
ユルツナクリエイティブディレクター
デザイナー
ユーザビリティエンジニア
ユニバーサルデザインコンサルタント
1966年愛知県常滑市出身。1989年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社のデザイナー としてビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器などのインダストリアルデザイン、インタフェースデザインに従事。日刊工業新聞社 機械工業デザイン賞、財団法人日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞選定など受賞多数。特にユーザビリティ向上にむけたデザイン開発プロセスの改革に取り組み、2007年にはユーザビリティデザイングループ長としてデザイン戦略立案とHCD開発プロセスの導入と推進を担う。「感じるプレゼン」(UDジャパン)執筆以降、ユニバーサルデザインに関する講演を数多く実施。2010年には北欧福祉の研究のためEgmont Højskolen及びKrogerup Højskolen(いずれもデンマーク)に留学、また株式会社グラディエを設立し、現在に至る。