多世代共生エコビレッジの旅 第1話|ユルレポ海外

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第一話「親の面倒をみる常識がない」

株式会社グラディエ 代表取締役 磯村 歩


 私は2010年の1月から10月までデンマークに滞在していました。もともとは北欧の福祉政策とインテリアデザインに興味を惹かれていったのですが、滞在するにつれデンマーク人の価値観と暮らし方に興味をおぼえ、滞在を延長し、さまざまな施設やコミュニティに訪問してきました。10ヶ月間の滞在中には、2つのホイスコーレン(別称:スクールフォーライフ)(※1)に留学し、スヴァンホルム(※2)というエコビレッジでゲストワーカーとして働き、また障害者施設、高齢者センター、幼稚園、国民学校など十数カ所をみて歩きました。本シリーズレポート「多世代共生コミュニティの旅」では、こうした訪問を通じて私が感じたデンマーク人の価値観と暮らし方をご紹介していきたいと思います。

 本稿のタイトルにあります「親の面倒をみる常識がない」は、デンマーク滞在中に私が最も印象に残った言葉です。自己決定権の理念が根付くデンマーク社会においては、必然的な価値観なのかもしれませんが、日本人の私にとっては信じがたいものでした。

デンマークのコペンハーゲン市内にあるニューハウン。色とりどりの宿泊宿、レストランが並んでいます。

 デンマークでは日本の45年前に高齢化社会(65歳以上 7%)を向かえ、そして16年前に高齢社会(65歳以上 14%)を向かえています。それと同調するように、就業者確保のため、女性が仕事と育児を両立できるための社会基盤が整備されていったといいます。今では女性の雇用率は80%を超えています。そして、そもそもデンマークで子供が生まれると「あなたの子供はあなたのものではなく国のものです」という通知が送られるといいます。家族単位ではなく国全体で育児をささえるという観念が根底にあるわけです。

 そしてこうした社会基盤に加えて、血縁に変わる新たな相互扶助として自発的な共生生活が生まれてきたように思います。それが北欧を発祥だとされる「コーポラティブハウス(※3)」「コレクティブハウス(※4)」そして「エコビレッジ」になります。また「ホイスコーレン」という教育制度も大変ユニークなものです。主に高等学校を卒業した学生が入学するのですが、そのほとんどが全寮制で営まれています。彼らにとっては共生生活のトレーニングといったものかもしれません。


※1 ホイスコーレン
デンマークで生まれた寄宿制の民衆教育機関。共生と対話を通じて民主主義社会を構成する市民としての素養を身につけることを目的とする。
※2 スヴァンホルムSvanholm
1978年から始まったエコビレッジで、約130名(2010年当時)が共同生活を送っている。農園、牛舎、太陽光発電、風力発電を持ち、農的な自給自足生活を営んでいる。
※3 コーポラティブハウス
敷地の取得から建築計画までを数世帯が対話を通じて決めていく暮らし方のことをいう。
※4 コレクティブハウス
独立した居住スペースを持ちながらも、いくつかのダイニング、キッチンなど共用スペースをもつ暮らし方のことをいう。スウェーデンが発祥だとされている。

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