第二話「複合化するコミュニティ」
株式会社グラディエ 代表取締役 磯村 歩
エコビレッジ「スヴァンホルム」にある下水浄化の施設を見た時に感じたのは「ここは会社?」でした。以前、工場見学で見た、浄化処理した水の中に鯉を泳がせている様子が頭に浮かんだのですが、確かにこのコミュニティは会社たるべく農業、畜産という事業で収益を得ています。他にもインフラとしてはセントラルヒーティング、太陽光発電、風力発電などが備わっています。行政グループ(総務、経理、庶務等)には非常勤のスタッフ含め4〜5名が働いています。小規模なコンファレンスを開催できる会議室もあります。ビルディンググループは主にコミュニティ内の建物、インフラの整備補修を担っていますが、持て余すほど広い作業場と工具が詰まったバン、高所作業用にクレーンまであるという充実した設備。会社でいえば、製造設備兼生産技術部門といったところかもしれません。
コミュニティ内には幼稚園、家庭医の詰め所、ショップ、アーティストのアトリエがありますが、まるで「小さな街」のようでもあります。そして、中古品(服、鞄、靴など)を一カ所に集め住民同士で再利用し、数多くの車、自転車、本などを共有するなど「ボランティア団体」がコミュニティ内に組織化されているようでもあります。
はたまた、単なる「隣近所」かもしれません。ちょっとした力仕事が欲しい時は、ゲストワーカーの住処に声をかければいい。コモンミールでの食事のあとは、同じ年頃の子供同士が自然に遊びはじめます。トランポリンが2つ、小さなフットボール場、大きな砂場、室内の大きな遊技場など遊び場も豊富です。更には「学校」という機能も包含しているのかもしれません。世界中から集まるゲストワーカーは、住民と共に暮らし、それぞれに何かを感じとります。そしてゲストワーカー同士、寝食を共にすることで互いの生活感、価値観の違いに気づくでしょう。
コミュニティの意は「共同体」ですが、その有り様は、会社、自治体、地域、ボランティア団体など様々です。そして、多くの有り様が複合化しているのが、このスワンホルムの特徴です。
思えば日本人にとって会社は複合的な機能をもったコミュニティであったかもしれません。特に大企業では、充実した福利厚生を一つの背景に、生産性向上を目指し、コミュニティ内の結束を図りました。しかし、個人主義の台頭と固定費の重圧から逃れるため、徐々にその影は薄まりつつあります。まさしくそれはテンニースのゲゼルシャフト(※)に対する問題意識そのものですが、ただ今後はゲマインシャフトとゲゼルシャフトの二者択一でもない。
僕たちは相互依存なしには生きてはいけません。血縁や地縁を基点とした相互依存は、多様化するライフスタイルを包含するフレームではないことを誰しも感じているはずです。今は新たな相互依存のカタチを模索する時代にあります。その際、おそらく従来の定義に収まらないより複合的、重層的なものが、柔軟性を持ち、結果として効率性をも生み出す可能性があると思うのです。
※「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」について(出典元:ウィキペディア)
ドイツの社会学者フェルディナント・テンニース(Ferdinand Tönnies, 1855年7月26日 - 1936年4月9日)は、人間社会が近代化すると共に、地縁や血縁、友情で深く結びついた伝統的社会形態であるゲマインシャフトからゲゼルシャフト(Gesellschaft)へと変遷していくと考えた。ゲゼルシャフト(Gesellschaft)は、ドイツ語で「社会」を意味する語であり、テンニースが提唱したゲマインシャフトの対概念で、近代国家や会社、大都市のように利害関係に基づいて人為的に作られた社会(利益社会)を指し、近代社会の特徴であるとする。ゲマインシャフトとは対照的に、ゲゼルシャフトでは人間関係は疎遠になる。日本においては、労働集約型の農業を基礎に「協働型社会」とも呼べるものが形成されていたと言われる。これは産業革命、工業化のプロセスに従って企業共同体へと変貌したと言われる。しかし、経済のグローバル化に伴いそれが崩れつつあり、日本の歴史上において最も激しい変化を経験していると言える。