コミュニティの複合化の事例をもう一つご紹介したいと思います。私が留学していた「エグモント・ホイスコーレン」は、あくまで「学校」であります。ところが、アシスタントヘルパー制度下において、健常の生徒は、障害をもつ同級生を介助しながらお金を稼ぐことができます。彼らにとって、この「学校」は学びの場であるわけですが、介助者としての「職場」でもあるのです。一方、障害をもつ学生のほうは、学びながら介助サービスを受けられるという利用者としての「施設」であります。このように「エグモント・ホイスコーレン」は「学校」でありながら「施設」機能をも包含しているわけです。
もう1つ特徴的なことは、160人中の60人が障がい者であり、そして全寮制で24時間一緒に暮らしていることです。よって生活の全てがそこにあるわけで、結果、様々な福祉用具が活用されているわけです。おもしろいことに、この生活環境に興味を持った研究者、デザイナー、建築家など様々な分野の人々が研究対象として「エグモント・ホイスコーレン」に訪れています。ここは、リビングラボと呼ばれる(障がい者の生活の)「研究所」であるのかもしれません。
「エグモント・ホイルコーレン」は「学校」「施設」「研究所」などの機能が複合化しているわけですが、例えば「学校」ということであれば、教師、学生という利用者属性がそこに存在することになります。そして「施設」でもあるので、雇用者、従業員、研修生という利用者属性が存在します。更に「研究所」でもあるので、研究員、企画者、建築家、デザイナーなどの多様な利用者属性が存在しえます。そしてこのように多様な利用者属性が集まると、またそれに興味を持ったメディアやビジターが訪れます。常にその場には多様な人々の行き来があり、コミュニティは沈滞することなく活性化されていきます。機能の複合化によるダイバーシティコミュニティの理想型がここにあると思うわけです。
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「第三話 コミュニティでの対話」
磯村 歩
株式会社グラディエ 代表取締役
ユルツナクリエイティブディレクター
デザイナー
ユーザビリティエンジニア
ユニバーサルデザインコンサルタント
1966年愛知県常滑市出身。1989年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社のデザイナー としてビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器などのインダストリアルデザイン、インタフェースデザインに従事。日刊工業新聞社 機械工業デザイン賞、財団法人日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞選定など受賞多数。特にユーザビリティ向上にむけたデザイン開発プロセスの改革に取り組み、2007年にはユーザビリティデザイングループ長としてデザイン戦略立案とHCD開発プロセスの導入と推進を担う。「感じるプレゼン」(UDジャパン)執筆以降、ユニバーサルデザインに関する講演を数多く実施。2010年には北欧福祉の研究のためEgmont Højskolen及びKrogerup Højskolen(いずれもデンマーク)に留学、また株式会社グラディエを設立し、現在に至る。