第三話「コミュニティでの対話」
株式会社グラディエ 代表取締役 磯村 歩
ある日「スヴァンホルム」に働くゲストワーカー同士で、共用スペースの管理について対話がもたれました。半年以上長期滞在しているドイツ人の声かけだったのですが、互いに快適に過すためにぜひ話し合いを持ちたかったと。かなりストレスも溜まっていたようですが、短期のゲストワーカーごとに、ここでのルールを伝えないといけなかったのもその要因の一つだったようです。このような問題意識の共有は人が集まる場では必ず必要になってきますが、その中でも欧州人は、こういう場面において、なんら臆面なく発言する傾向にあるのかもしれません。日本人ならば遠慮してしまうような個人名を挙げての指摘を堂々と行います。これが反ってオープンな意見交換につながり、全員の意識共有はスムーズに終了することができました。
因に「スヴァンホルム」の住人になるためには、半年程度の期間を要するといいます。まずはメールベースでビレッジの規定(70歳以下、アルコール依存症のないこと、既住民の年収に対し一定範囲内か、スワンホルム訪問履歴が一定以上あるかなど)に合うかどうかを確認し、そしてパーティなどで直接顔を合わせ、互いに人となりが十分わかった上で決定されるといいます。ライフスタイルなどの志向が同じである上に、既住民との相性も図るわけです。通常私たちは不動産購入、賃貸など新しい土地に移り住む際、こうしたプロセスはないように思います。せいぜい移り住んでからようやく隣近所に挨拶にいく程度でしょうか。ただ考えてみれば、住む土地を決定するというのは、建屋、利便性、費用など物理的な側面に加え、その土地のコミュニティなどソフト面も考慮すべきものなのかもしれません。家のローンなど大金を払って住み始めてから、その土地の人とうまくいかなかったというのもつらいものでしょう。
さて前述のようなプロセスを経て「スヴァンホルム」の住人になったとしても、実際に共同生活を始めると対立する場面も出てくるといいます。ここでは「コンフリクトソリューショングループ(対立解決グループ)」が解決の道を探るのだそうです。対立の仲介役になるわけですが、そのユニークな方法を教えてもらいました(^_^) 例えば、ミーティングの場面において、トラブルメーカーの横に住民からリスペクトされているメンバーをあえて座らせるといいます。トラブルメーカーに対し、やんわりと発言しにくい雰囲気を作るのだそうです。またこうした特定のグループに継続してその任にあたらせれば、ファシリテーション、仲介のノウハウも蓄積されます。コミュニティにおける対立を前提として、予め解決の仕組みを用意しておくのは、極めて合理的な方法でしょう。互いに遠慮し合って、言いたいことを溜め込むより、よほど健在ですよね。
しかし、こういうプロセスと仕組みがあったとしても、出て行く住民はいるといいます。コミュニティを持続維持していくためには、常にその場を活性化させておくこと。そうでなければ、人の交流さえ生まれずコミュニティの体をなさないでしょう。例えば、会社に新入社員が配属された際、自然と会話が生まれ場が華やぐように、コミュニティの持続維持のためには人の行き来を前提とするのも一つの考え方なのかもしれません。人が固定すると、”あうん”のコミュニケーションが蔓延りコミュニティは淀みます。出ていく者、入ってくる者の行き来がある方が、コミュニティにとってはいいのかもしれません。また「スヴァンホルム」の住人の中には「ここの住人数(100人以上)も移り住む一つの要因だったのよ」といいます。彼女は、あまりに少人数のコミュニティでは気疲れしてしまうということでしたが、共同生活する上での最適な人数というのもあるのでしょう。
さて、僕ら日本人は、血縁・地縁といういわば「抜けられない相互関係」にすっかり慣らされてしまっているのかもしれません。この「抜けられない相互関係」を持続維持するために、衝突をさけ、対話においても積極的な発信を苦手としてきたのではないでしょうか。活発な対話と、コンフリクトしたときのソリューション、そして互いの相性を擦り合わせるプロセスを通じて、コミュニティの持続維持をはかることは、これから僕たちが模索すべき新しい相互扶助のカタチなのかもしれません。