多世代共生エコビレッジの旅 第3話|ユルレポ海外

クロゴップホイスコーレンの外観。白いファサードが素敵な貴族の屋敷だったところです。

 今度は「クロゴップ・ホイスコーレン(※)」というデンマークのホイスコーレンでの事例をご紹介しましょう。以前、学内で「Bafa Bafa(バファバファ)」という異文化理解を目的としたトレーニングが行われました。まず大きく二つにグループに分かれ、それぞれ異なるゲームを行います。一つ目のグループは、カードを交換しあって得点を競い合います。ゲーム中は決められた”合い言葉”のみを使い、母国語と英語は使いません。そして各人それぞれ6段階の階級が設定され、階級が”上”もしくは”同等”でなければカードの交換を仕掛けられないように決められています。もう一つのグループは、ポップな音楽を流し気分を盛り上げ、互いに触れ合い、そして絵を描き合うだけのゲーム。ルールは特に設定されません。言葉は母国語と英語以外の擬音のようなものを各自自由に創作して話します。そして、とにかく互いに笑い合い、喜びあい、褒め合うことだけを心がけます。

クロゴップホイスコーレンの外観。白いファサードが素敵な貴族の屋敷だったところです。

 実は、この2つのグループは全く”異なる文化”を持ったコミュニティとして設定されています。一つ目は、ヒエラルキーをもった”競争社会”、二つ目は、自由で陽気な”南国社会”。そして、ときおり数人を交換留学させます。違うコミュニティに入った自分が、どのように戸惑い、何を感じるかがこのトレーニングの大きなポイントとなります。そして、2回の交換留学を行った後に、それぞれのグループに戻り、他方のコミュニティについて話し合います。

 少し話が反れますが、対話におけるデンマーク人の積極性にはほとほと感心します。International Studentもメンバーに入っているので全員英語で話すのですが、非常に流暢且つテンポよく話します。「諸外国に囲まれた小国だから母国語だけに頼るわけにはいかない」と彼らはいいますが、その環境下におけるメリットは以外に大きい。クルクルと言語を変えて話す彼らを見ていると、つい母国を憂いたくなります。

 さて、私は”競争社会”にいたのですが、”南国”についての議論がとても愉快。「異なる色の鉛筆を使っていたが、何か階級を現しているのではないか?」「人によって話す言葉が違うが、規則性があるような気がする」「絵が壁に貼り出されていたが、一定以上のイラストが溜まったものに限定するなどルールがあると思う」「人によって、相手のどこを触るか決めているはず」等々。但し、前述のように”南国”には全くルールが存在しません。全く適当にやっているわけです。にも関わらずあり得ない仮説が出てきたわけですが、これは”競争社会”における価値観を基準に”南国社会”を理解しようとしたがために起こったわけです。

クロゴップホイスコーレンの外観。白いファサードが素敵な貴族の屋敷だったところです。

 さて「多様な価値観を理解し認め合う」とは誰しも理想とするところですが、ひょっとしたら、私たちは決して互いの理解など出来ないのかもしれません。理解したつもりでも、それは自分の尺度で推し量っただけの話で、真に腑に落ちるまでには至らないのではないか。極論すれば、相手を理解するには、その相手自身になるしかない。

 本校では生徒間で食事、掃除など日常のタスクを分担します。どのグループにもあるように個々の生活態度によってコミュニティに対する貢献に差が生じてきます。ある授業で教官が「国際的な共同関係を構築するには、まず互いを尊敬すること」と唱えたのを発端に「(キッチン使用後の後始末の悪さなど)周囲の環境維持に貢献しない者にまで、果たしてそれでも尊敬することができるのか?」また「コミュニティに対する貢献に不公平があったとしても、それでもなお私たちは相手を尊敬しなければいけないのか?」という不満が噴出しました。「国際紛争とは問題のレベルこそ異なるもののコトの本質はそういうことではないか」という論旨でした。その後、責める方、責められる方が互いに異なる論点で主張し、結果、明瞭な妥協点は見出せませんでした。決して互いを理解したとは言いがたい状況でした。ただ、対話を持ったというプロセスが、ひとまずその場を収めました。単純に言えば「互いに言いたいことを言い合ったから、とりあえずスッキリした」という収束。

 真に相手のことは、相手自身にしか分かり得ない。ただ対話による一時の収束は図りえる。本来分かり得ない相互の共生を維持するには、拙速に解決を図るのではなく、互いの主張を共有する”対話の継続”にかかっているのではないか。国際紛争において対話が有効だとする論旨はこうしたところにあると思うのです。そのためには最低限、自ら発信するという姿勢が必要です。多様な価値観を”理解する”という受動的態度では、互いに察しあい誤解が誤解を生みかねません。”発信する”という能動的態度を継続することが、多様性ある社会に繋がると思うのです。

※ クロゴップ ホイスコーレンKrogerup Højskole
ホイスコーレンとは、デンマークを発祥とする国民高等学校で別称「スクール・フォー・ライフ」とも呼ばれている。主に高校を卒業した学生が就学する寄宿制の学校。クロゴップ ホイスコーレンはデンマーク コペンハーゲンから電車40分程のところに位置し、設立当初は政治家の輩出を目的とした。現在のカリキュラムは「ドキュメンタリーフィルムを制作しジャーナリスティックな思考を養成するコース」「アフリカ・メキシコなどの新興国をめぐり知見を広げるコース」「写真・音楽・陶芸・社会学・国際情勢など本校が用意するカリキュラムを自由に選択するコース」「インターナショナルな生徒間で国際情勢に関する対話と自身で世界を俯瞰できる能力を養成するコース(Crossing Borders)」などがある。

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ayumu.jpg磯村 歩
株式会社グラディエ 代表取締役
ユルツナクリエイティブディレクター
デザイナー
ユーザビリティエンジニア
ユニバーサルデザインコンサルタント


1966年愛知県常滑市出身。1989年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社のデザイナー としてビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器などのインダストリアルデザイン、インタフェースデザインに従事。日刊工業新聞社 機械工業デザイン賞、財団法人日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞選定など受賞多数。特にユーザビリティ向上にむけたデザイン開発プロセスの改革に取り組み、2007年にはユーザビリティデザイングループ長としてデザイン戦略立案とHCD開発プロセスの導入と推進を担う。「感じるプレゼン」(UDジャパン)執筆以降、ユニバーサルデザインに関する講演を数多く実施。2010年には北欧福祉の研究のためEgmont Højskolen及びKrogerup Højskolen(いずれもデンマーク)に留学、また株式会社グラディエを設立し、現在に至る。

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