「観光のアクセシビリティ」デンマークのユニバーサルデザイン
株式会社グラディエ代表取締役
磯村 歩
先日、私は観光のユニバーサルデザインの研究のためデンマークに訪れました。車椅子ユーザー、小さなお子さんを連れたお母さん、目もしくは耳が不自由な方など多様な特性の方々と一緒に観光を実体験するというものです。一般の旅行者のシナリオを再現するため、代表的な観光地の訪問と極力公共交通機関を利用する行程としました。観光のユニバーサルデザインは街づくりにもおよぶ大きなテーマでありますが、本稿はあくまで旅行者として気づきを体験記としてお伝えするものにしたいと思います。
初日はコペンハーゲン観光の目玉である「ストロイエ(歩行者天国)」「ニューハウン(上写真)」「人魚の像」などを訪問。二日目は「ルイジアナ美術館」「大型ショッピングセンター」などの施設を中心に訪問。三日目は、少しコペンハーゲンから離れたコリングという街の「コリング 博物館」などに訪問しました。本ツアーは株式会社バリアフリーカンパニー(代表取締役 中澤 信氏)主催のもので、私はコーディネーターとして参加をいたしました。では気づいたポイントごとにご紹介いたします。
「疎外感のないアクセシビリティ」
コペンハーゲン国際空港(左上写真)には、エレベーター、エスカレーター、階段がまとめて 設置されていました。コペンハーゲンの地下鉄(中上写真)、ショッピングセンターの入り口(右上写真)も同様にこの3点セットでした。日本の施設では、エレベーターと階段が離れているた め車椅子ユーザーの友人と「じゃあとでね」と離ればなれになることも多いのですが、これらは 友人と一緒に移動できるいい設計だと思います。
トラフォルト美術館(左上写真)とコペンハーゲン動物園の象舎(中上写真)には螺旋状の大きなスロープが設置されています。このスロープは乳母車や車椅子が利用できる傾斜になっています。こうした緩やかな傾斜は移動距離が長くなりがちですが、展示スペースを兼ねることで楽 しみながら移動できるよう工夫されています。ルイジアナ美術館(右上写真)の展示室の階段に は昇降機が設置されていますが、これは見学者が自由に使っていいものとなっています。よって 車椅子ユーザーだけでなく、乳母車を使っているお母さんも気軽に使うことができます。
デンマークの多くの施設は多様な特性の方々のためのアクセシビリティを確保するのに加え、 同行者と同じ動線になるよう工夫されているように思います。利用者に疎外感を与えない好事例 です。またデンマークの建築は、天窓を持つ大きな吹き抜けにエレベーター、エスカレーター、階段などの上下移動を設けている設計が多いように思いました。施設全体に光を取り組む効果的 な方法だと思いますが、日向が好きなデンマーク人の気質が影響しているのかもしれません。
「点字ブロックにみる統一性と柔軟性」
コペン中央駅構内に設置されている点字ブロックを見ながら「これは飾りだね(使いものにな らない)」と結論づけるメンバーたち。それにしてもデンマークの点字ブロックは多種多様です。 誘導ブロックの突起の本数は一本から四本まで、ごつごつしたブロック石で点字ブロックに見立てているもの、点状の突起で誘導しているもの、金属板で代用しているもの等々。敷設が不十分で、誘導された先に何もないという事例も数多く見受けられました。揺るやかなカーブを描く点字ブロックは、見た目こそ美しいですが、視覚障がい者にとって曲線移動は方向感覚を失いかねません。誘導ブロックの形状が途中で変わるのも戸惑うでしょう。現地で見かけた数人の視覚障がい者は、確かにほとんど”アテ”にしていませんでした。これでは敷設する側の自己満足といわれても仕方ありません。
何人かのデンマーク人に聞いてみると「自分たちの地域だから、自分たちの思うようにしたい。だから、それぞれの地域で(点字ブロックが)異なるのは、その結果だよ」といいます。大胆な政策転換も厭わない国民性で、標準化よりむしろ柔軟性に重きをおきます。それ故にこうした割り切りの良さも出てくるのかもしれません。また潤沢な福祉財源を背景にアシスタントヘルパー制度による介助サービスを受けられるということも背景の一つかもしれません。
このようにあまりに不揃いなのもどうかとは思いますが、ただ一方で、あまり盲目的に統一化をはかるのも考えものだと思っています。日本ではガイドラインに沿ってはいるものの、利用されているの?と感じる事例が多くあります。点字ブロックを敷設することが目的化しているのです。少しでも利用者の使用シーンをイメージすれば、おのずと対応も変わってくると思います。 その結果、地域によって仕様が変わってもいいのでないでしょうか。
デンマークでみた多種多様な点字ブロックの多くは、利用者との対話を通じて仕様を決定して いるといいます。どのような合意形成であったかは伺い知れませんが、あくまで作り手と使い手の対話を起点に、ガイドラインに対して盲目的にならないように開発を進めたいものです。