多世代共生エコビレッジの旅 第5話|ユルレポ海外

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 ここに併設されている幼稚園は、ビレッジの住民が自分たちの暮らし方のコンセプトを基にコムーネ(日本の市に相当する)と数多くの対話を重ねながら計画を練ったそうだ。天井から採光を取り入れた大きな空間をもち、緑と一体になった運動場を持つ。「いいでしょ」と自慢げに紹介するアン。今後もマウンテンバイクのコースが欲しいなど夢は広がる一方のようだ。それにしても、このように地域住民が施設計画に積極的に関わり、自分たちの地域をデザインしていくというのは非常に創造的で、かつ住民の在り方として羨ましくさえ感じた。

 さて、そもそも僕らが住む土地を選ぶ基準ってなんだろうか。「手頃な価格のマンションがあったから・・」「交通が便利だから・・」「その街のイメージに惹かれて・・」などパッシブな理由が多いんじゃないだろうか。もしこれが仮に「環境負荷の少ない暮らし方をしたい」「多様な人間が集まる共同生活を作り上げたい」「自分たちで地域社会をデザインしたい」などアクティブな社会的な目的を持って選び、それを共有できる仲間が周りにいる土地であったならば、地域への参加と関心は高いものになるはず。「Social Experiment」というのは、こうした自発的な住民があってこそ成り立つ動機であり、そして僕はなぜか”ワクワク”させられる。

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 また今後は知的障害者のグループホームを建設するというが、彼らの暮らし方の中でどのように展開されるのが非常に楽しみだ。昨今、高齢者だけが住む住宅地は社会性が乏しく理想的でないとして、多くの福祉施設が複合化(幼稚園と併設など)を志向している。ただ福祉を基点に発想しているためか、コンセプトが少々薄っぺらいように思う。「誰でも利用できるレストランを併設する」「女性に来訪してもらうためネイルサロンを併設する」等々、そもそもどういう暮らし方を志向するのかという根っこがないから、継ぎ接ぎで、その施設の魅力に繋がっていないように感じる。

 福祉施設もその地域の一機能に過ぎない。であるならば、どういう暮らし方の地域なのかが先にあって、その次にダイバーシティを思考した方が、多くの人を惹きつけるものになるのではないか。多くの地方自治体が掲げる「人にやさしい街づくり」はアクセシビリティの向上には繋がっても、その地域に住む動機にはなっていないのではないか。

 留学していた「エグモントホイスコーレン」を例にとるならば、福祉を志向する学生もいるが、単にこの学校の雰囲気が気に入っているからなど福祉とは関係のない目的の学生も多い。そういう環境だからこそ、結果的に多種多様な人間が集まり、ダイバーシティになりうる。先に自発的な動機が必要なのだ。それが結果的に障がい者も楽しめる環境になる。

「Social Experiment」”実験”っていい。なんかワクワクする。


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ayumu.jpg磯村 歩
株式会社グラディエ 代表取締役
ユルツナクリエイティブディレクター
デザイナー
ユーザビリティエンジニア
ユニバーサルデザインコンサルタント


1966年愛知県常滑市出身。1989年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社のデザイナー としてビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器などのインダストリアルデザイン、インタフェースデザインに従事。日刊工業新聞社 機械工業デザイン賞、財団法人日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞選定など受賞多数。特にユーザビリティ向上にむけたデザイン開発プロセスの改革に取り組み、2007年にはユーザビリティデザイングループ長としてデザイン戦略立案とHCD開発プロセスの導入と推進を担う。「感じるプレゼン」(UDジャパン)執筆以降、ユニバーサルデザインに関する講演を数多く実施。2010年には北欧福祉の研究のためEgmont Højskolen及びKrogerup Højskolen(いずれもデンマーク)に留学、また株式会社グラディエを設立し、現在に至る。

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