先日、カナダで建築を勉強する学生が見学に訪れました。本訪問がデンマーク国内のエコビレッジ5カ所目だとのこと。以前就学していた「エグモントホイスコーレン」でも、日本で建築を勉強する学生が見学に訪れていました。彼女は24カ所ものホイスコーレンを視察したという。いずれも興味の対象はコミュニティの形成にあるのですが、この国はこうした視察を目的とした訪問が多いのではないでしょうか。北欧全体にいえることですが、イタリア、フランス、スペインなど比べ明らかに観光資源は乏しい。彼らにとって視察対象となる社会システムは一つの観光資源なのかもしれません。
コミュニティで暮らす住人にとって、外部の訪問はうれしいものです。誰しも「自分に興味を持ってくれる人」は快く受け入れます。彼らは定期的に見学ツアーを開催するなど訪問客を受け入れる体制を整えています。そして外部からの訪問はコミュニティの広告宣伝に繋がります。ゲストの訪問というのは、自己満足でやっている共同生活に対し第三者から客観評価を得られるということ。そして自己満足から、それは”自慢”に変わり、更には”誇り”にまで昇華することもあるでしょう。
さてそもそも視察対象足りうるには、唯一無二でなければなりません。代用があるのであれば、そこに行く必要がない。だからこそ、そのコミュニティは極めて主観的な自己満足である必要があるのです。
次稿につづく
磯村 歩
株式会社グラディエ 代表取締役
ユルツナクリエイティブディレクター
デザイナー
ユーザビリティエンジニア
ユニバーサルデザインコンサルタント
1966年愛知県常滑市出身。1989年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社のデザイナー としてビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器などのインダストリアルデザイン、インタフェースデザインに従事。日刊工業新聞社 機械工業デザイン賞、財団法人日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞選定など受賞多数。特にユーザビリティ向上にむけたデザイン開発プロセスの改革に取り組み、2007年にはユーザビリティデザイングループ長としてデザイン戦略立案とHCD開発プロセスの導入と推進を担う。「感じるプレゼン」(UDジャパン)執筆以降、ユニバーサルデザインに関する講演を数多く実施。2010年には北欧福祉の研究のためEgmont Højskolen及びKrogerup Højskolen(いずれもデンマーク)に留学、また株式会社グラディエを設立し、現在に至る。