北欧の人をつなげる建築 第5話|ユルレポ海外

5_02.jpg

連載 第五回「人を包括するデザイン」

株式会社グラディエ代表取締役
磯村 歩

 今までは、どう人を惹きつけるかを中心にお伝えしてきました。今回はユニバーサルデザインの観点から、いかにして人を包括するかについてご紹介します。ノーマライゼーション発祥の国「デンマーク」では、設計段階に対話のプロセスを織り込み、当事者のみならず家族や友人など関わる全ての方々に対しても配慮した設計が行われています。

「見えない点字ブロック」

5_04.jpg

 デンマークのコペンハーゲン中央駅には、一見しただけでは分からない点字ブロックが敷設されています。同じ模様をした凹と凸の形状のタイルが並べられている(上写真)のですが、凸のタイルだけが、ある方向を示し誘導ブロックとして機能しています。凹凸の陰影は類似しているので、同じ模様のタイルが並んでいるように見えます。色弱者には有用ではありませんが、設計のプロセスでは十分に視覚障がい者との議論を重ねたそうです。最終的にデンマークの玄関たる駅に機能一辺倒のものはそぐわないという判断だったようですが、当事者の利益だけでなく、その駅を使う全ての方々に意識が及んでいるということでしょう。デンマークでは民主主義国家としての理念のもと対話を重視した教育が行われていますが、日常生活や仕事の上でも対話を重ねて物事を決めていきます。時間はかかりますが、そのプロセスが市民の理解を促し、施設が活発化するといいます。ノーマライゼーションとは、一意に決められるものでなく、そして当事者だけの利益を考えるものでもなく、関連する全ての方々との対話を通じて柔軟に決められていくものなのです。

「同行者を置き去りにしない」

5_03.jpg

 デンマークの多くの施設にはエレベーター、エスカレーター、階段が一カ所にまとめられています(上写真)。日本ではエレベーターと階段が離れているなど車椅子ユーザーの友人と離れ離れになってしまうこともあるのですが、これならば一緒に行動できます。デンマークのある美術館と動物園の象舎には、階段の替わりに大きな螺旋状のスロープが設置されています。乳母車や車椅子への配慮ですが、スロープは移動時間が長くなり退屈に感じる方がいます。そこで展示品をそのスロープに沿って設置し、同行者含めた全員が楽しみながら移動できるようにしています。アクセシビリティの検討プロセスにおいて、ついつい同行者の存在は忘れられがちですが、当事者の行動を仔細に観察すれば多様な同行者が浮かんでくるはずです。そうした方々もどうやって包括していくかが本来のユニバーサルデザインといえるでしょう。

 ショッピングセンターなどで高齢者に電動カートを貸し出す「ショップモビリティ」というサービスは、店内の滞留時間が約3倍となり、更には同行する家族や介助者の購入機会を含めると売上は数倍になるともいわれています。小規模のレストランや店舗でも車椅子に配慮することで、その友人も新たな顧客となります。このように同行者にまで視野を拡げるとユニバーサルデザインはビジネスとして大きな広がりをもってきます。(掲載:高齢者住宅新聞 2011年10月5日)

5_05.jpg
電動カートに乗りながら友人と談笑

次稿につづく(11月5日発行)

ayumu.jpg磯村 歩
株式会社グラディエ 代表取締役
ユルツナクリエイティブディレクター
デザイナー
ユーザビリティエンジニア
ユニバーサルデザインコンサルタント


1966年愛知県常滑市出身。1989年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社のデザイナー としてビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器などのインダストリアルデザイン、インタフェースデザインに従事。日刊工業新聞社 機械工業デザイン賞、財団法人日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞選定など受賞多数。特にユーザビリティ向上にむけたデザイン開発プロセスの改革に取り組み、2007年にはユーザビリティデザイングループ長としてデザイン戦略立案とHCD開発プロセスの導入と推進を担う。「感じるプレゼン」(UDジャパン)執筆以降、ユニバーサルデザインに関する講演を数多く実施。2010年には北欧福祉の研究のためEgmont Højskolen及びKrogerup Højskolen(いずれもデンマーク)に留学、また株式会社グラディエを設立し、現在に至る。

連載 第四回__連載 最終回

ユルレポボタン。クルーが訪問した住宅、施設、コミュニティのレポート
ユルレポ海外のボタン。海外の住居、コミュニティのレポート
ユルツナ大学のボタン。日本の住居、コミュニティを訪問する見学会の案内
ユルツナ実録のボタン。ユルツナクルーが実際にどうやってゆるいつながりの暮らしを作り上げていくかのレポート
ユルツナ見学会のボタン。日本の住居、コミュニティを訪問する見学会の案内


No1.png

No2.jpg

No3.jpg

No4.jpg