北欧の人をつなげる建築 最終話|ユルレポ海外

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最終回「人を引き寄せるコミュニティ」

株式会社グラディエ代表取締役
磯村 歩

 今までは建築空間についてご紹介してきましたが、より良く人をつなげていくためには運用面での工夫も必要です。最終回はコミュニティ形成におけるユニークな取り組みをご紹介します。

「機能の多重化」

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多様性にあふれる学校「エグモントホイスコーレン」

 デンマークにある健常者と障がい者が共に学ぶ「エグモントホイスコーレン」は学びながら働けるというユニークな環境です。多くの健常の学生は、学びながら同級生である障がい者を介助することで自治体から給与支給を受けています。同時に障害をもつ学生は、同級生によるサポートによって授業に参加することが出来るのです。また全寮制ということもあり校舎や寮内では様々な福祉用具が活用されていますが、国内外の福祉用具の設計者やデザイナーなどがこの環境を利用した試用テストを行っています。ここは学校なのですが、デイケア施設や研究所のようでもあり、このような機能の多重化が多様な人々を引き寄せています。

 デンマークの「スヴァンホルム」というエコビレッジでも機能の多重化が進んでいます。ここはコモンミールを持つコレクティブハウスでもあり、農業や畜産を営む会社でもあり、風力による自家発電に取り組む研究所でもあり、更には公民館や保育所を運営するなど自治体のようでもあります。こうしたことが保育所での高齢者就労、農園での障がい者就労、家事育児の分担、生活用品(車、本、衣料品など)のシェアなど多様な相互扶助を生み出し、様々な人々を引き寄せています。

「コミュニティのブランディング」

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子供と一緒に出かけられる「クリスチャニアバイク」

 ヒッピーたちがドイツの元占領下に移り住んだデンマークの自治区「クリスチャニア」は、自然に配慮した生活のため子供や大きな荷物を運べる自転車「クリスチャニアバイク」を生み出しましたが、今では自転車王国デンマークのシンボルとなっています。また移民やセクシャルマイノリティにも寛容な風土から自由主義のシンボルとしても多くのデンマーク人の支持を受けています。今ではオリジナル商品の企画販売も始めるなどコミュニティのブランディングを進め、コペンハーゲン観光の目玉にもなるなど多くの観光客が訪れています。

「コミュニティの持続維持」

 前述の「スヴァンホルム」に入居するには1〜2年程かかるそうですが、その期間は居住者のパーティーやイベントに参加してもらい居住者との相性をみるのだといいます。また居住者と同程度の年収の方に限定するなどコミュニティ内のライフスタイルの平準化を図っています。更に各種決議においては全員が賛成するまで物事は進めず、そしてコミュニティ内の揉め事の解決には専門チームが対応することになっています。持続維持のためには合理的な仕組みが必要なのです。

 日本と比べいち早く高齢化社会を向かえた北欧では、共生居住における多種多様な取り組みが行われています。本連載では可能な限り多くの事例を取り上げるようにしましたが、年内に各事例の詳細をお伝えするセミナーを開催いたします。ご興味あれば弊社(info@gradie.jp)までご連絡ください。(掲載:高齢者住宅新聞 2011年11月5日)

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「スヴァンホルム」の居住者パーティー

ayumu.jpg磯村 歩
株式会社グラディエ 代表取締役
ユルツナクリエイティブディレクター
デザイナー
ユーザビリティエンジニア
ユニバーサルデザインコンサルタント


1966年愛知県常滑市出身。1989年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社のデザイナー としてビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器などのインダストリアルデザイン、インタフェースデザインに従事。日刊工業新聞社 機械工業デザイン賞、財団法人日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞選定など受賞多数。特にユーザビリティ向上にむけたデザイン開発プロセスの改革に取り組み、2007年にはユーザビリティデザイングループ長としてデザイン戦略立案とHCD開発プロセスの導入と推進を担う。「感じるプレゼン」(UDジャパン)執筆以降、ユニバーサルデザインに関する講演を数多く実施。2010年には北欧福祉の研究のためEgmont Højskolen及びKrogerup Højskolen(いずれもデンマーク)に留学、また株式会社グラディエを設立し、現在に至る。

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