アクティブシニアになれるコミュニティ
株式会社スマートコミュニティ 代表取締役社長 山内成介さん
株式会社スマートコミュニティ 代表取締役 山内 成介さんは、北米のアクティブシニアタウンをモデルに日本人の志向にあわせた従来にない画期的なコミュニティを作られました。高齢化社会は介護期のみならず、自立期をどう暮らしていくのかも大きな課題です。そして自立期の暮らし方次第で介護期も大きく変わります。スマートコミュニティは、本来あるべき高齢期における暮らし方を、極めて現実的かつ魅力的なカタチで私たちに問いかけています。何より、山内さんご自身が“住んでみたいコミュニティ”という自分目線でのご提案は大きな説得力でしょう。山内さんの快活なお話しぶりも皆さんに是非感じて頂きたいと考え、お答え頂いた内容をほぼ全文掲載いたしました。では、山内さんの授業はじまりです。
Q:母校である「京都大学」では都市計画を専攻されていらっしゃったのですね?
もともと人がとても好きだったので、人と話して、その人からいろいろな刺激を受けながら勉強をしたいなと思っていたんです。それで人が集っている街やその変遷、そしてその街に住む人たちがどうしたら暮らしやすくなるのか、居心地が良くなるのかということに興味がわいて都市計画を勉強するようになりました。
Q:そこから「任天堂株式会社」に入られ、独立後「株式会社スマートコミュニティ」を創業されました。その経緯を教えていただけますか?
都市計画を勉強していた頃から欧米にある“アクティブシニアタウン”というものにとても興味を持っていました。6年前に実際に現地へ行く機会があって、そこで非常に強い衝撃を受けたんです。まず行った途端に目に飛び込んできたのが、かなりご年配の女性が20名程とても魅力的なミニスカートを着て、手にはポンポンを持ってチアリーダーの練習をしてたんです。それもかなり足を上げて大胆にね。
その2万人規模の“アクティブシニアタウン”には野球チームがあって、そのレギュラーメンバーに自分の恋人が所属しているというんです。隣のアクティブシニアタウンの野球チームとの試合に応援に行かないといけない、というのでチアリーダーを結成して練習しているということだったんです。とても真剣で楽しくやっておられたのですが、そもそも80歳の方がチアリーディングをするなんて日本では考えられないですよね。これはすごいなぁと思っているうちに建物の二階へあがったんですが、そこには体育館のような所があって卓球台が20〜30台あったんです。
ちょうどお昼時で、お一人で練習されている男性の方がおられたんですが、話しかけると「今、総合ランキングの60位から70位のところに自分はいるんだよ。今度の日曜に、卓球クラブの定例試合があるんだけれども、そこでベスト32位に入ると、念願の総合ランキング50位内に入れるんだ。だから皆が休んでいる昼食時にでも練習をして差を付けないとね。今回はいけると思うよ。」とおっしゃるんです。その方は78歳だとおっしゃってましたが、なんとも元気だなぁととても感心したのを覚えています。
次にコンピューターが30台程並べてある別の部屋に入ると、大勢の人がハンバーガーを食べながらとてもラフな雰囲気でメールやチャットの仕方を勉強しているんです。生徒も先生も70歳代くらいでした。外でもゴルフやテニスをやっていたり泳いでる人がいたり、とても活発な方が多い。こんなことが展開されてるのがとても信じられなくて、色で表現するなら虹色か薔薇色のイメージでしょうか。みんなとても明るくて楽しそうで、日本にもあったらいいなと思ったんですが、それがどこにもないんです。
自分は、今40歳半ばなんですけど、いずれ自分もシニアの世界に入っていくわけです。そういうときに今の日本の現状が、私にとっては灰色でウェットなイメージで、とてもそこには入っていきたくないなと思うんです。アメリカで見たような、あのハツラツとしたコミュニティなら自分も入ってみたい。でも今の日本にはそういうものがなくて、アンチエイジングとか海外移住とか現状にあらがうしかない。「じゃあ創ってみよう」というのが一つ目の経緯です。
もう一つ理由があるんですが、ご存知の通り日本は超高齢化社会ですよね。今、65歳以上の方が日本の人口の3分の1、そして50歳以上の方が日本の人口の半分位になっていると思います。そしてシニアの8割位の方々はまだまだ元気だと言われています。でも本当に8割の方々が元気なのかと思って調べ始めたんですが、するとどうもそうではない。実は、「お金の不安」と「心の不安」を抱えて生きている人が大半だということだったんです。
「お金の不安」に関してですが、年金生活になると収入が今までの半分もしくはそれ以下になる方が多いと思います。その人がどれだけ能力があって元気だったとしても、年金というのは一度固定されたらずーっとスライドされてしまいます。おそらく厚生年金を受給していらっしゃる方は20万円程度でしょうか。そういう方々が毎月いくら使っているかというと30万円程度。だから差し引き10万円は持ち出しなんですね。貯蓄が毎月毎月減っていくんです。そうすると単純計算で、あと何年で「ゼロ」になるかわかるわけです。長生きしたいけど「ゼロ」になったらその後どうするんだということです。ましてや“もしも”のために残しておく金もそれなりに必要だということになるんです。
ただ、今までせっかく真面目に働いていたのに生活をダウンサイジングしてこれから暮らしていかなくてはならないのは少々つらい。でも「お金の不安」というのは日に日に増大していくわけです。一方「心の不安」は、毎朝通勤で行っていた所が無くなったり、親が他界したり、友人や配偶者が病気になって入院したり介護を受けたり、子供がいる人は子供が独立してなかなか寄り付かないとか、というようにだんだん孤独になっていくことです。
特に最近は退職してからすごく長いんですよね。薬や医療も発達していて、ある意味、なかなか死なせてくれない。するとだんだん細くなった孤独な人生をずっと長く続けていかなくてはいけない。孤独というのは人間にとって大敵で、とてもつらい部分なんです。洋の東西を問わず、昔から悪いことをしたら極刑は死刑、その前段の一番は独房に入れられて孤独を強いられるということです。そして刑が重ければ重いほどその期間は長くなる。それだけ孤独は人間の骨身にこたえるということなんです。ひょっとしたら、高齢化して過ごしていくということは、塀はないけれども独房に入れられている。それもすごく長い時間ということと同じなのかもしれません。
マザー・テレサがノーベル平和賞を何がために貰ったかというと、特別なことは何もしていないんです。それこそ浮浪者や身寄りのない人で死んでいく人の手をにぎって「あなたは一人じゃないんですよ。私がそばについていますよ。」ということを毎日毎日繰り返しただけなんです。けれども、世界中からの大賛同でノーベル平和賞に結びついた。最近ですと、中国人が平和賞を受賞して同じ中国人が反対たりしていますが、マザーテレサが取り組んでいた“癒す”という行為がいかに大事なことか、洋の東西、肌の色関係なく、皆が満場一致で拍手とともに賞を送ったのだと思います。
孤独はそれほどつらい、しかも日に日に増大する孤独を抱えている人が日本には本当に多い。アメリカ人が孤独なら「私、独りです。助けて!」と言えるんだけれども、私たち日本人は手を上げて大きな声をあげない。そして日々の生活を自宅でTVを見て過ごしてしまう。そういった人がすごく多くなってきているように思います。日本はそういう孤独が蔓延する社会になっている。「お金と心の2大不安」がシニアの中に蔓延している。それをなんとか同時に解決できないだろうかと考えたのが、スマートコミュニティを作った二つ目の理由ですね。