働き方のイノベーション「co-lab」
春蒔プロジェクト株式会社 代表取締役 田中陽明さん
「コ・ワーキング」「ノマドワーキング」など、柔軟に場所を選び、自立しながらも集合体で働くスタイルが注目を浴びています。田中陽明さんが主宰する「シェアード・コラボレーション・スタジオ co-lab(以下 co-lab)」(2003〜)は、まさしくその先駆けといえるでしょう。今では三番町、千駄ヶ谷、西麻布、二子玉川の都内4拠点までに広がり、200名近いクリエイターや社会起業家などが所属しています。そして多くの拠点で稼働率100%を誇るなど不動産業界においてもイノベーター的な存在でもあるのかもしれません。更に、田中陽明さん率いる「春蒔プロジェクト」では、プロジェクト毎に入居しているクリエイターをつなぐファシリテーションも行うなど、単に場所を提供しているだけでなく、人と人をつなぐコミュニティデザインも実践していらっしゃいます。今回は、その「co-lab」の運営について大変興味深いお話しを伺うことができました。では田中さんの授業はじまりです。
Q:建築学科を卒業後、なぜメディアアートを専攻されたのですか?
美大(武蔵野美術大学 建築学科)を卒業後、しばらくゼネコンの設計部で働いていたんです。いわゆる“ハコ(ハード)”のデザインをしていたわけなのですが、進める中でもう少しコミュニティのデザインというか“ソフト”の方をデザインしたいなと思い始めました。そこでコミュニケーションデザインに興味をもち、そしてコミュニケーションアートとも呼ばれるメディアアートを勉強したいと考え、SFC(慶應義塾大学大学院政策メディア研究科)のメディアアートを専攻することにしたんです。
Q:そこからどのように「co-lab」の活動につながったのでしょうか?
最初は森ビルさんにご支援いただいて、東京・港区六本木1丁目の「25森ビル」に入りました。2003年当時、森ビル文化事業部さんの「アカデミーヒルズ」という社会人講座に「アーク都市塾 AAD (Art、Architecture、Design) スクール」というものがありまして、隈研吾さんや深澤直人さんとかが教えてらしたコースに助手という扱いでスペースを提供して頂いた後、co-labコースを設けていただき、友人を中心に30人程度集めて、シェアするスペースを作ったというのが「co-lab」のスタートでした。もともと建築家としてハードのデザインを中心に行っていたのですが、ハードとソフトの両方を同時にしたいと考えるようになっていました。まさしく「co-lab」は、ハードとソフトの両方をデザインし、プランニングする中から仕事を見出していくのですが、僕の中では極めて必然性のある方向性でした。
co-labのホームページにある「co-labのコンセプト」も是非ご覧ください。独立したクリエーターが集合体で働く可能性が示されています。
Q:実際、始められて印象が変わったことなどはありますか?
友人同士の集まりであることも大きいと思いますが、盗難や守秘義務など大きなトラブルが今まで一度もないんです。そもそも「co-lab」はオフィスのレイアウトを昔の長屋風にしていますが、ひょっとしたらシェアオフィスという形式は日本人に合っているのかもしれません。
そもそも僕らは新しいことやっているわけじゃなくて、昔からの形式を現在風に焼き直しただけなのかなと思っているんです。長屋形式というコンセプトで、ハードとソフトを同時にデザインしているという意識です。また自分自身も同じプレイヤーとして入居者と同じ視点で仕事をしているってことも大きいのだと思います。入居者、管理者という関係ではないので、仮に何か問題が起きたときでも同じ視点で解決していこうという姿勢になります。こういう関係性にあるので、一般的には“クレーム”のようなことでも“問いかけ”になります。その問題はみんなで話し合おうというスタンスになるので、問題が起きれば起きるほど、それが話し合うきっかけになって、コミュニケーションが活性化されていきます。また、課題が大きければ大きいほど、その中でリーダー格の人が出てきて、その人がそのままひっぱっていってくれるなど自発性も出てくる。というようなことが起きているのが「co-lab」の大きな特長ですね。