Q:そもそもこの事業を始めたきっかけは?
ある財団法人に勤めていた頃に妊娠したのですが、年齢的に出産後は仕事が出来ないんじゃないかと不安で退職しました。ただ妊娠中のゆったりとした時間の中で「出産後に自分の趣味と実益を兼ねられるような仕事を家でのんびり出来たらいいな」と思い始めて。
新卒で入った会社で南米に5年ほど駐在していた時期があったのですが、その時のお友達とまだ交流が続いていて、南米から雑貨を輸入してネットショップをしたいなと考えるようになりました。あまり日本にない雑貨だったので、サンプルを小ロットで輸入して、お客さんの反応を見ながら価格設定したいと思ったのですが、テンポラリーに販売できる場所がなかなかないんです。商店街の中にある週代わりでお店が変わる週貸し店舗に問い合せしたんですが、こちらは賃金がものすごく高くて、立地も特別良かったのかもしれませんが、3坪で1週間21万円といわれたんです。
なぜこの“ちょっと販売したい”というニーズや思いが実現できないのかしらと思いながら街中を見回してみると、自由が丘のメルサの入り口とか、二子玉川駅と玉川高島屋の連絡通路とか“ちょっとここ貸してくれないかしら?”という場所がいっぱいあるように思ったんです。
それで、何かちゃんとした調査をしたわけでもなかったんですが、自分も試しに使ってみたかったし、こういう物件集めてみようかなと始めたのがきっかけです。それが2007年末の出産前後でした。
Q:物件を集めるのにはご苦労されたのでは?
最初は「春までにはオープンしますよ」という告知サイトを作りました。「1日単位で貸し借りが出来るような物件を掲載するホームページです」という内容を伝えるためだけのものだったんですが、使いたいっていう方からの反響がすごくあったんです。
例えば、ランチ販売など自動車で物を売る移動販売の方からの問い合せです。路上とかで違法に販売される方がたまにいらっしゃるんですが、当然、警察の取り締まりにドキドキしながらやってらっしゃって。でも本当はちゃんと誰にもおとがめを受けることのない場所で商売したいと思ってらっしゃる方がほとんどで、そういう方々からの反応が多かったですね。
しかも、ピンポイントに「日本橋の○丁目の角で商売したいので、ぜひ場所を探してください」とか、そういうお声を沢山頂いて、これはもしかしたらちゃんとやってみたらいいかもしれないって考え始めたんです。
でも公開後の一年くらいはもうすごく苦労しました。不動産オーナーはまさかそんな風に自分が持っている土地とか建物のちょっとした軒先を貸せるなんてそもそも思ってらっしゃらなかったし、ご自身から登録されるということはほとんどありませんでした。私自身子ども産んですぐだったのでなかなか営業活動に行けず、主人に「ちょっとお願いだから手伝って!」って言って、近所の商店街とかに「ここの軒先貸してくれませんか?」みたいなことをしてもらっていました。でもサイトをオープンしたときは、物件数一桁でしたね。それから半年くらいまでは10件、20件程度で、なかなか増やすことが出来ませんでした。
Q:そこから物件数が伸びていったきっかけはなんでしょう?
ベスト・オブ・イケベン賞受賞の表彰盾。確かにイケてる事業です(^_^)
おそらくリーマンショックだと思います。ちょうど2008年の秋頃に不動産市況が一気に冷え込んでしまって、ある不動産投資会社さんからご相談の連絡が来たんです。「投資物件や商業物件がいくつかあるけれども全然流用出来なくて困っている。焼け石に水でも構わないから、掲載するだけでもお願いしたい」とご依頼を受けまして、それが九段下にある元お寿司屋さんだったんです。居抜きのままで、内装もかなり手が行き届いていなかったんですが、やってみえるとすごい人気だったんです。このカウンターとかをそのままで靴屋さんにしたり、寿司カウンターの上に置いて食器を売ったり、利用者さんみなさんいろいろ工夫しながら営業していらっしゃいました。
あと四谷三丁目の4階建ての物件の1階部分だけを貸し出ししたんです。あの辺りはビジネス街なんですが、少し裏手に入ると高齢の方々がお住まいになっている住宅街なんです。それでお布団とか、婦人靴とかがすごく売れたんですね。おそらく周りにスーパーとか生活雑貨を売っているお店がほとんどなくて、それまでこういう生活密着型の商品が買いたくても買えなかったんだと思います。最初は1週間6万円とか低価格でお貸ししてたんですけれども、もう大人気になって、最終的には1週間15万円でお貸ししてもずっとフル稼働だったんです。結局、9ヶ月間で400万円くらい売り上げをあげたんでが、何もしなかったらゼロの物件、さらに維持費や固定資産税とかで赤字になるところが大きな収益を産んで貸主さんもすごく喜んでいらっしゃいました。
元お寿司屋さんのカウンター(左)をうまく活用した靴屋さんの商品展示(右)
四谷三丁目の空き物件(左)が、覗いてみたくなる賑やかな店舗に(右)
Q:利用者さんもよくその可能性に気づかれましたね。
おそらく1週間6万円と安い料金だったので「試しに出してみようか」といったことなんだと思います。それが出してみると想定外に売れて、以来リピートされています。